「岩倉アリア」は、戦後の混乱の最中にある日本で、とある華族を舞台に繰り広げられるサスペンスアドベンチャーです。
身寄りのない少女、”北川壱子”となり、ある日、「岩倉家」の主である岩倉周に見込まれ、名家の岩倉家で、住み込みの女中として働くことに。
壱子は、岩倉家の一人娘である「岩倉アリア」との交流を深めながら、岩倉家の謎に迫り、それと同時に仄暗い真実に近づいていく————
記事の前半は核に触れるようなネタバレはなしで紹介します。
世界観の概要などには触れますので、まっさらな気持ちでプレイしたいという方はご注意くださいね。
岩倉アリア、採点及び評価
以下、あくまでも個人的な好みの話ということで、これからゲームをプレイする方にとって少しでも参考になれば幸いです。ペコリ。
ゲームの概要について
タイトル | 岩倉アリア |
メーカー | MAGES |
ジャンル | リアルサスペンスADV |
発売日 | 2024年6月27日 |
プラットフォーム | switch |
価格 | 限定版:7,150円(税込)通常版:4,950円(税込)DL版:4,400円(税込) |
CERO | C |
ゲームの世界観について
少女は、縛り首の運命を待つ――
一九六六年。
戦後、目まぐるしい変化を遂げる日本で、社会から取り残された少女と、社会から切り離された少女が出会う。視線を交わしたふたりの間に生まれるのは、友情か、愛情かーーそれとも、ただすれ違うためだけの始まりか。
愛しても憎んでも、時は流れ、人生は続いていく。
絵画のように美しい、この邂逅の先で……「わたし」は誰と、どんな人生を生きるのだろう。
メーカー公式サイトより
システム・ED種類について(ネタバレなし)
岩倉アリアは、選択肢によって好感度が変動するマルチエンディング方式のノベルゲームで作業要素はありません。
選択によって、壱子たちがどんな未来を歩むようになるのかが決まり、33年後が描かれます。この設定がとても面白いなと思いました。エンディングは9種類あり、そのうちの一つがトゥルーエンドとなります。
お話の分岐における制限は特にありませんでした。個人的には、トゥルーエンドは最後になるように制限があった方が良かったように思います。何度目かでトゥルーに辿り着いてしまい、そのほかエンド回収が作業となってしまったのは少し残念でした。
ゲームシステムとしては、自動文字送りは出来ますが、選択肢スキップはなく、またフローチャートもありません。このあたりのシステム周りは、ノベルゲームとして少し不便さを感じた次第です。
そもそもそれほどボリュームのあるゲームではないので、フローチャートなしでも充分プレイは可能ですが、周回プレイをする前提だと、フローチャートはともかく、選択肢スキップは合った方が親切かと。
岩倉アリアの魅力
1.世界観を彩るグラフィックとキャラクター
まずはイラストから。最初にPVを観た時から、岩倉アリアの世界観を表現している絵画のようなイラストに魅了されました。油絵のようなタッチで描かれたスチルが要所要所でゲームを彩ります。
スチルの数としてはそれほど多くはないのですが、作中では上記のようにモノクロで画像が差し込まれるので、読み進めていて文字だけで飽きてしまう、といったことはありませんでした。
キャラクターについて。まず、主人公”壱子”は若さゆえ選択肢によっては暴走している感はありました。主人公を取り巻いてきた環境からすると、致し方ない部分もあると思うのですが若干癖はあります。人間らしくて私はこの主人公は嫌いではないです。まさにリアル。
深窓のご令嬢であるアリアは、誰もが魅了される完璧な容姿、立ち居振る舞い、全てにおいて説得力がありました。彼女は打ち解けてくると、人並みの感情が見えてくるのですが、そのギャップがとても可愛らしい。
岩倉邸の主である岩倉周、岩倉家の厨房を任されている、壱子と同年代のスイ。書生など登場人物は少ないのですが、それぞれに物語がありました。
上記画像のスイがいることで、物語がぱっと明るくなりました。グラフィックも含めて、世界観を大切に丁寧に描かれている作品です。
2.その時々のシーンを盛り上げる音楽
私は限定版を購入したのですが、ひとえにサントラが欲しかったからです。PVで流れてくる音楽が素晴らしかったので、限定版にしたのですが正解でした。良いゲームには良い音楽がセットという説。
気になるところ
- 主人公の言動が、立場とマッチしていない
- エンディングが似ていたり、シナリオ展開が想定内で終わってしまった感がある
選択肢にもよるのですが、主人公が猪突猛進な性格ということもあり、お嬢様と女中いう身分差があまり感じられませんでした。気になる方は体験版をプレイしてみてください。
シナリオについて、詳細は控えますが想定内の展開でした。勿論、心揺さぶられる瞬間もありましたが、真相についても想定内でわりとあっさりしていたと思います。個別ルートがあるのですが、そのうち二つのエンディングが似ているなと感じました。
【平均・75.0 評価C】レーダーチャート
キャラクター(声優さんの演技含む)、スチルの美しさが際立っていたので上記の点数です。
シナリオに関しては薄味でした。謎も特別な感じのものではなかったこともあり、個人的な好みになりますが、繰り返しプレイしたいかと言われるとどうかなと思ったので、ゲーム性もこのあたりで。
システムは選択肢スキップが欲しかったのと、真相ルートは制限があった方が良いと思うので、低めにしています。
【総評】どんな人におすすめ?・おすすめしない?
おすすめな方
- キャラクターに惹かれる
- 声優さんが好き
- 凝った世界観のノベルゲームが好き
おすすめしない方
- 百合要素が苦手
- 主人公(ヒロイン)の言動が気になる方
- 血が苦手な人は控えた方がいいかと
総評として、「岩倉アリア」は、全体的にまとまっている佳作です。さくさくと進められるので、ノベルゲーム好きにはおすすめの出来るゲームです。また、凝った世界観のお話が好きな方にもおすすめです。
ただ、百合要素のあるゲームなので、女性同士の恋愛に抵抗がある方にはおすすめしません。CERO:Cの部分は、ほぼ流血ではないかと思うので、そういったストーリー展開が苦手な方は気をつけてください。
ストーリー感想(※ネタバレあり)
ネタバレあり。彼女達は、どう生きて何に抗うのか?
以下、ネタバレありますのでご注意下さい。
岩倉アリアは、シナリオ的には岩倉アリアの謎が途中で予想がつくというか、やっぱりそういうことだよね、という感じでした。サスペンスと謳っていたので、もう少し凝った展開のエンディングがあってもいいのかなと思う。
トゥルーエンドの壱子とアリアは屋敷を飛び出したあと、苦労して今の場所に辿り着いたとありましたが、実際に戸籍や住所不定だとしても、戦後の混乱期、アリアの所持金と美貌があれば、なんとかなったのだと脳内補完できたので、ハッピーで終わってくれたのは良かったと思いました。
思うところがあったのは、スイエンドについて。壱子とスイの関係性において、同性愛である必要性が感じられなかったんですよね。アリアとの関係性の対比として、スイとは友愛的な話で良かったのではないかと思う。
前提として、スイはとても好きなキャラです。ただ、壱子とスイが恋愛関係となったことで、私は壱子がアリアに惹かれた理由が弱くなり、壱子とアリアの絆やアリアの特別性が薄れたように感じました。
アリアはこの作品のタイトルになるくらい、絶対的なシンボルで、唯一無二の存在なはずです。だからこそ成立している世界観だと考えていて、そんな孤高のアリアが壱子とのやりとりを通じ、「人間らしさ」を取り戻したことで、アリアのなかで壱子は必要不可欠な人となり、恋心になったのだと理解していました。
一方で、壱子はアリアの圧倒的な美しさ、ミステリアスかと思えば人懐っこい、とらえどころのない猫のような部分に最初は心動かされ惹かれていったのだと思っていたのですが、壱子とスイが恋愛関係になったことによって、壱子は身近にいる美しく(可愛い)優しくしてくれる人なら誰でもいいのかな?と感じてしまったというか。壱子は生い立ちから、他人に優しくされと弱いのはわかるんですけどね。
私が読み取れていない部分があるのかと思いますが、スイとのエンドが恋愛関係になるのなら、そこに至る葛藤をアリアとの時と同じくらいの尺で描いて欲しかった。二人の間には身分差がなくても。そして、スイエンドとアリアエンドは違う終わりの方が良かったんじゃないかと思います。例えば、人生経験を重ねるうちに距離が出来たけれど、エールを送る間柄となっていて、時間が過ぎて大人になったのだな、で終わらせるとか。
壱子とスイ、壱子とアリアが似たようなエンディングを迎えるのなら、このゲームのタイトルである「岩倉アリア」が最大の謎になるのではないかと思う。
岩倉周は声優さんの演技が素晴らしかったです。ドSなように見えて本質的にはドMな紳士が破滅していく様子は、物語としてひき込まれました。CEROの関係上だと思うのですが、もっとこの人は鬼畜でも良かったのではないかと思ったくらいです。そしてもっと弱くて愚かなところも見たかったな。
イラストはとても美しく、音楽は素晴らしかった。人間の業や生きるということについて問いかけてきている作品だと感じました。また、同性愛、新興宗教などトレンドともいえる題材を活かしきれていないように感じたので、シナリオにもうひとひねり欲しかったと思ったのでこの点数にしました。
長文にお付き合いしてくださって、ありがとうございました
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